中学生の国語読解力を伸ばす本の選び方
中学生の国語読解力を伸ばす本の選び方
精読と多読をどう組み合わせるか
中学生の国語の読解力は、精読と多読を組み合わせることで鍛えやすくなります。
精読とは、文章をゆっくり丁寧に読み、語句の意味、文と文のつながり、段落の役割、筆者の主張、登場人物の心情などを確認しながら読むことです。
多読とは、さまざまな文章にたくさん触れ、語彙や知識、文章への慣れを広げていくことです。
前の記事では、精読と多読の基本的な役割について書きました。
今回はその続きとして、中学生が読解力を伸ばすために、どのような本や文章を読むとよいかについて考えてみます。
中学生になると、文章の抽象度が一気に上がる
中学生が読む文章は、小学生の頃に比べて、使われる語彙も、語られる内容も難しくなります。
ただし、すべての文章が同じように急に難しくなるわけではありません。
小説文や説明文は、小学6年生で読む文章から中学生の文章へ、比較的段階的に難しくなっていきます。もちろん語彙や表現は難しくなりますが、物語の流れや説明の順序を追う読み方は、小学生の頃の延長で対応しやすい部分があります。
一方で、中学生がつまずきやすいのは、論説文や評論文です。
論説文や評論文では、具体的な出来事だけでなく、抽象的な考え方や概念が多く扱われます。
「社会とは何か」
「言葉とは何か」
「自然と人間の関係とは何か」
「科学技術は人間の生活をどう変えたのか」
「個人と集団はどのように関係しているのか」
このようなテーマになると、文章の内容をただ順番に追うだけでは、何を言っているのか分からなくなることがあります。
中学生にとって、論説文や評論文が難しいのは、読む力がないからとは限りません。文章の中で扱われている考え方そのものが、まだ生活経験の中で十分に育っていない場合もあります。
だからこそ、論説文や評論文を読む力をつけるには、問題集だけでなく、背景となる知識や考え方に触れる読書が役に立ちます。
教科書の論説文が難しいときは、ジュニア向け新書を読む
教科書の論説文は、限られたページ数の中で、かなり大きなテーマを簡潔にまとめています。
そのため、文章そのものは短くても、内容は意外に難しいことがあります。
短い文章の中に、筆者の考え、具体例、対比、まとめが詰め込まれているため、読む側にある程度の知識や経験がないと、意味がつかみにくくなります。
もし教科書の論説文が難しいと感じるなら、同じようなテーマを扱ったジュニア向け新書を読むのも一つの方法です。
教科書では数ページで説明されている内容が、新書では一冊をかけて、具体例を交えながらゆっくり説明されています。
そのため、いきなり短い論説文を読んで分からなかった内容でも、新書を通して読むと、少しずつ意味が見えてくることがあります。
特に、岩波ジュニア新書やちくまプリマー新書には、中学生や高校生が読みやすいように書かれた本が多くあります。社会、科学、歴史、言葉、哲学、文化、環境など、さまざまな分野の本があるので、興味のあるテーマから選んでみるとよいでしょう。
難しい文章を読む力は、難しい文章だけをにらみつけていても、なかなか育ちません。
その文章で扱われている世界を、少し広く知ることが大切です。
中学生の精読は、教科書・問題集・入試問題で行う
中学生の精読は、まず教科書、学校ワーク、問題集、参考書、高校入試の過去問などを使って行うとよいです。
これらの文章は、設問がついているため、文章をどこまで正確に読めているかを確認しやすいからです。
ただし、読解力を高めることが目的なら、問題をたくさん解くことだけに意識を向けすぎない方がよいです。
問題を解く前に、本文を丁寧に読む。
分からない語句を調べる。
段落ごとの内容を確認する。
筆者の主張や、登場人物の気持ちの変化をつかむ。
答えの根拠が本文のどこにあるかを探す。
このような読み方をすることで、精読の練習になります。
国語が苦手な生徒ほど、問題を解くことだけに追われて、本文を読む時間が浅くなりがちです。
しかし、読解力をつけるうえで大切なのは、「なぜその答えになるのか」を本文にもどって確認することです。
多読は、精読を助けるために行う
中学生の場合、多読は、ただ本をたくさん読むことだけが目的ではありません。
多読によって、精読を助ける土台を広げることができます。
たとえば、環境問題についての本を何冊か読んでいれば、入試問題で環境をテーマにした論説文が出たときに、文章の内容に入りやすくなります。
言葉についての本を読んでいれば、言語やコミュニケーションを扱った文章が読みやすくなります。
科学読み物を読んでいれば、自然科学系の説明文に対する抵抗が少なくなります。
読書で得た知識は、そのまま点数になるとは限りません。しかし、文章を読むときの足場になります。
足場がある文章は読みやすい。
足場がない文章は、最初の一歩が重くなる。
多読には、その足場を増やす働きがあります。
論説文・評論文対策には、ジュニア向け新書が使いやすい
中学生の読解力を伸ばすための多読として、特に使いやすいのはジュニア向け新書です。
岩波ジュニア新書には、社会、歴史、科学、文化、言葉など、幅広いジャンルの本があります。中学生や高校生に向けて書かれているため、一般向けの新書よりも読みやすいものが多いです。
ちくまプリマー新書も、中高生向けの本が多くあります。岩波ジュニア新書より少し難しく感じるものもありますが、その分、考え方を深めるにはよい読書になります。
理科系の内容に興味がある生徒なら、ブルーバックスに挑戦してみるのもよいでしょう。高校生や一般向けの本が多いので、中学生には難しいものもありますが、テーマによっては十分読める本もあります。漫画形式で書かれたものや、図解が多いものから入るのもよい方法です。
大切なのは、最初から難しい本を選びすぎないことです。
読める本から始める。
興味のあるテーマから選ぶ。
途中で難しすぎると感じたら、少しやさしい本に戻る。
このくらいの柔らかさがあった方が、読書は続きやすくなります。
小説文は、入試に近い読み方も意識する
小説については、「好きな本を読めばよい」と言いたくなるところです。
読書そのものを楽しむという意味では、それで十分です。好きな物語を読むことは、読書習慣を作るうえでとても大切です。
ただし、高校入試の国語を意識するなら、少しだけ注意したい点があります。
高校入試で出題される小説文は、派手な事件やスピード感のあるストーリーよりも、人物の心情の変化を丁寧に描いた文章が多くなります。
登場人物が大きな冒険をするというより、日常の中で少しずつ気持ちが動く。
会話やしぐさの中に、心情が表れる。
はっきり説明されていない感情を、本文の表現から読み取る。
こうした文章が出題されやすいです。
そのため、入試に向けて小説を読むなら、ストーリーの面白さだけでなく、人物の心情や人間関係が丁寧に描かれている作品にも触れておくとよいでしょう。
ただし、小説文の読解力は、参考書、問題集、高校入試の過去問を使った精読でも十分に鍛えることができます。
小説をたくさん読むことが苦手な生徒は、無理に小説ばかり読もうとしなくても構いません。入試問題の文章を丁寧に読み、語句を調べ、心情の根拠を本文から探す練習を重ねることでも力はついていきます。
小説文の精読に使いやすい文章
小説文の精読では、参考書、問題集、高校入試問題に掲載されている文章を使うのが取り組みやすいです。
問題文として選ばれている文章は、心情の変化や場面の転換が読み取りやすいものが多く、設問を通して自分の読み方を確認できます。
読むときには、問題を解くだけで終わらせず、本文に戻って確認することが大切です。
この人物は、最初はどんな気持ちだったのか。
どの出来事で気持ちが変わったのか。
その気持ちは、どの表現から分かるのか。
会話や行動に、どんな意味があるのか。
このような点を確認しながら読むと、小説文の精読になります。
また、やや古い文章に触れることも、語彙や表現を広げるには役立ちます。
たとえば、夏目漱石の『坊っちゃん』は、現代の中学生には少し古く感じる表現もありますが、漱石の作品の中では比較的読みやすい方です。無理なく読めそうであれば、挑戦してみる価値があります。
幸田文の文章は、表現が古く感じられる部分もありますが、随筆に近い味わいがあり、細やかな観察や感覚の表現に触れることができます。
現代作家では、乙一の作品のように、構成、会話、人物描写、心情の変化がはっきりしている作品も、読む力を鍛える材料になります。ジャンルとしてはホラーやミステリーに近いものもありますが、文章の組み立てを意識して読むと、学ぶところがあります。
もちろん、これらを必ず読まなければならないわけではありません。
小説文の読解力をつけるには、人物の心情を本文に即して読む練習ができる作品を選ぶことが大切です。
随筆文・説明文・論説文・評論文の読み方
中学生の場合、随筆文、説明文、論説文、評論文の区別は、はっきり分かれないこともあります。
随筆文は、筆者が自分自身の経験や日常の出来事をもとに、感じたことや考えたことを書いた文章です。
説明文は、ある物事について、分かりやすく説明する文章です。
論説文は、筆者の意見や主張を、理由や具体例を使って論理的に述べる文章です。
評論文は、文化、社会、芸術、言葉、人間などについて、より抽象的に考えを深める文章です。
ただし、実際の文章では、随筆のように始まりながら、途中から論説文のように筆者の主張が出てくるものもあります。説明文の中に、評論に近い考え方が含まれている場合もあります。
そのため、文章の種類を名前だけで分けるよりも、「この文章では何が説明されているのか」「筆者は何を考えているのか」「具体例と主張はどうつながっているのか」を読むことが大切です。
説明的文章の精読では、語句調べを大切にする
説明文、論説文、評論文を読むときは、語句の意味調べがとても大切です。
小説文では、多少分からない言葉があっても、場面や流れから何となく読めることがあります。
しかし、論説文や評論文では、重要な語句の意味が分からないと、文章全体の意味がつかみにくくなります。
たとえば、「抽象」「概念」「相対」「普遍」「制度」「共同体」「合理性」「価値観」などの言葉が分からないまま読むと、筆者の主張がぼんやりしてしまいます。
分からない言葉が出てきたら、辞書で調べる。
調べた意味をノートに書く。
その言葉が、本文の中でどのように使われているかを確認する。
この作業をすると、説明的文章はかなり読みやすくなります。
余裕があれば、「意味調べノート」を作っておくのもよいです。
国語の語彙は、一度調べただけで完全に身につくものではありません。何度も出会ううちに、少しずつ自分の言葉になっていきます。
段落ごとの要点をまとめる
説明的文章を読むときは、段落ごとの要点を簡単にまとめる練習も役に立ちます。
長い文章が苦手な生徒は、文章全体を一気に理解しようとして、途中で分からなくなることがあります。
その場合は、段落ごとに区切って読むとよいです。
この段落では、何を説明しているのか。
この段落は、前の段落の理由なのか。
具体例なのか。
反対意見なのか。
筆者の主張なのか。
このように確認していくと、文章の流れが見えやすくなります。
文章全体を読む力は、段落を読む力の積み重ねです。
一段落ずつ意味を確認し、それらがどうつながっているかを見ることで、長い文章にも対応しやすくなります。
読書の時間は、長期休みに作る
中学生は忙しいです。
学校の授業があり、宿題があり、定期テストがあり、部活動があります。塾に通っている生徒なら、さらに塾の授業や宿題もあります。
その中で、毎日まとまった読書時間を作るのは簡単ではありません。
だからこそ、夏休み、冬休み、春休みなどの長期休みを利用するのが現実的です。
特に、中学1年生や中学2年生の夏休みは、読書量を増やすよい機会です。まだ受験勉強が本格化する前なので、問題演習だけに追われず、読む力そのものを育てる時間が取りやすいからです。
目標を高めに置くなら、夏休みに20冊ほど読んでみるのもよいでしょう。
もちろん、20冊という数は絶対ではありません。読む本の難しさや一冊の分量によっても変わります。大切なのは、数だけをこなすことではなく、ある程度まとまった量の文章に触れることです。
やさしめの本を何冊か読む。
興味のある新書を読む。
入試問題に近い文章を丁寧に読む。
少し難しい本に一冊挑戦してみる。
こうした読書を長期休みに行うと、数か月単位で読む力に変化が出てくることがあります。
読書の効果は、漢字テストのようにすぐ点数に表れるとは限りません。
しかし、語彙が増え、文章への抵抗が減り、知らないテーマにも入りやすくなると、読解問題に向かうときの感覚が少しずつ変わっていきます。
読解力アップのために読みたい本の方向性
中学生が読解力アップのために読書をするなら、随筆文、説明文、論説文、評論文に近い本を意識して選ぶとよいです。
小説が好きな生徒は、小説を読んで構いません。読書習慣を作るうえで、好きな本を読むことはとても大切です。
ただし、国語の読解力、とくに論説文や評論文への対応力を伸ばしたい場合は、考え方や知識を広げる本も読んでおきたいところです。
その意味で、ジュニア向け新書は使いやすい読書材料になります。
さらに、余裕があれば、入試で見かけることのある作家や評論家の文章に触れてみるのもよいです。
たとえば、外山滋比古の文章は、ものの見方や考え方を広げる読み物として取り組みやすいものがあります。
日高敏隆の文章は、生き物や自然についての説明文を読む練習として使いやすいです。
本川達雄の文章は、生物学的な視点から人間や社会を見る面白さがあります。
中村明の本は、日本語の語感や言葉の使い方に関心を持つきっかけになります。
長谷川櫂の文章は、日本文化や俳句、言葉の感覚に触れる入口になります。
鷲田清一の文章はやや難しいですが、身近な経験から哲学的な問いへ入っていく文章として、丁寧に読む価値があります。
森博嗣の理科系の読み物は、理系的なものの見方や論理の進め方に触れる機会になります。
これらの著者をすべて読む必要はありません。
大切なのは、自分に合った難度の文章を選び、少しずつ読める範囲を広げていくことです。
読めない本を無理に読み続けなくてよい
読解力を伸ばすための読書で気をつけたいのは、「難しい本を読めば力がつく」と単純に考えないことです。
難しい本に挑戦することは大切です。
しかし、ほとんど内容が分からないまま読み続けても、読む力が伸びる前に、読書そのものが苦痛になってしまうことがあります。
読書には、少し背伸びをする本と、気楽に読める本の両方が必要です。
少し難しい本で考える力を伸ばす。
読みやすい本で読む量を増やす。
問題集や入試問題で精読する。
この三つを組み合わせると、読解力は育てやすくなります。
分からない本に出会ったときは、無理に最後まで読む必要はありません。
少し寝かせておいて、半年後や一年後にもう一度読んでみると、意外に読めるようになっていることもあります。
それも、読解力が伸びている証拠です。
精読と多読を分けて考える
最後に、精読と多読の使い分けを整理しておきます。
教科書、問題集、参考書、高校入試の過去問は、精読に向いています。本文を丁寧に読み、語句を調べ、設問の根拠を確認しながら読むことで、読み方そのものを鍛えることができます。
ジュニア向け新書や読みやすい評論、説明文、科学読み物などは、多読に向いています。さまざまなテーマに触れることで、語彙や知識が増え、論説文や評論文を読むときの足場ができます。
小説文については、読書として楽しむことも大切ですが、入試に向けては、問題集や過去問を使って、心情の変化を本文に即して読む練習をするのが効果的です。
国語の読解力は、一つの方法だけで急に伸びるものではありません。
丁寧に読む経験。
たくさん読む経験。
言葉を調べる経験。
文章の流れを整理する経験。
本文に根拠を探す経験。
これらが重なって、少しずつ読む力になっていきます。
中学生の読解力を伸ばすには、問題演習だけに偏らず、精読と多読を組み合わせることが大切です。
そのとき、本選びは、子どもにとっての入口になります。
難しすぎない本から始める。
興味のあるテーマを選ぶ。
少しずつ抽象的な文章にも触れる。
入試問題に近い文章は、丁寧に読み込む。
この積み重ねが、中学生の国語読解力を支える土台になります。