学校・塾に振り回されない家庭教育

中学生のお子さんを育てていると、毎日のように色々な情報がご家庭に入ってきます。

学校の三者面談で「今の内申点では、志望校は厳しいですね」と言われる。
塾の先生から「この成績だと、もっと問題集をこなさないと危ないですよ」と言われる。
ママ友から「うちの子はもう、過去問を解き始めているみたい」と聞かされる。

こうした言葉を聞くたびに、親の心は大きく揺れ動きます。
「このままでうちの子は大丈夫なのだろうか」
「もっと厳しく勉強させた方がいいのではないか」
「私が見張っていないと、どんどん落ちこぼれてしまうのではないか」

お子さんの将来を大切に思えば思うほど、親が不安になるのは当然のことです。愛情があるからこそ、焦ってしまうのです。

しかし、外からやってくる情報や評価の言葉を、そのままお子さんにぶつけてしまうと、どうなるでしょうか。実は、この「不安のバケツリレー」をしてしまうことこそが、子どもの学習意欲を一番深く折ってしまう原因になります。

親が勉強の教え方を知らなくても、全教科の入試問題が解けなくても、ご家庭にしかできない最も大切な役割があります。
それは、お子さんの「こころのコントロール」をすることです。

なぜ家庭がこころを整える場所にならなければいけないのか。順を追って、丁寧にお話ししていきます。


1. 学校や塾は「評価」をする場所である

まず、学校や塾という場所が、子どもにとってどういう空間なのかを考えてみましょう。

学校も塾も、基本的には子どもを「評価」する場所です。
定期テストの点数、通知表の内申点、模試の偏差値、志望校の判定アルファベット。子どもたちは毎日、数字による評価と、周りの友達との競争の中に身を置いています。

もちろん、学力を伸ばすためには「自分が今どの位置にいるのか」を知るためのテストや評価は絶対に必要です。塾の先生も学校の先生も、子どもをいじめたくて厳しいことを言っているわけではありません。現実を教え、奮起させるために言葉をかけています。

しかし、大人でもそうですが、毎日毎日「お前はここが足りない」「もっと頑張らないとダメだ」と評価され続けると、どうなるでしょうか。
どれだけタフな子どもでも、心は少しずつすり減り、エネルギーを失っていきます。

子どもたちは、親が思っている以上に、外の世界で戦って、傷ついて、疲れ果てて家に帰ってきているのです。


2. 家庭まで「評価の場所」になると、子どもは逃げ場を失う

そんな風に外の世界で評価の波にさらされているお子さんが、重いカバンを下ろして家に帰ってきたとき。
もしご家庭が、学校や塾と同じように「評価をする場所」になっていたら、お子さんはどう感じるでしょうか。

「今日のテスト、何点だったの?」
「塾の先生に言われた宿題、まだやってないじゃない!」
「そんな成績じゃ、行ける高校なんてないわよ!」

親としては、奮起してほしくて、あるいは心配のあまり、つい口にしてしまう言葉です。
しかし、学校や塾で「足りない」と言われ、一番安心できるはずの家でも「足りない」と追い詰められた子どもは、完全に逃げ場を失ってしまいます。

逃げ場を失った子どもの心は、パンクしてしまいます。
パンクした結果、どうなるか。
部屋にこもって出てこなくなったり、反抗して暴言を吐いたり、あるいはスマートフォンやゲームの世界に逃げ込んで現実から目を背けたりするようになります。「どうせ自分なんてダメなんだ」と、自暴自棄になってしまうのです。

どんなに素晴らしい塾に通っていても、どんなに分かりやすい参考書を買ってあげても、それを受け止める「こころ」が荒れていたり、怯えていたりすれば、知識は絶対に頭の中に入っていきません。

車に例えるなら、学校や塾は「エンジンの性能を良くする場所」です。
でも、そのエンジンを動かすための「ガソリン」を入れる場所は、家庭にしかありません。ガソリン(心のエネルギー)が空っぽのままでは、どんなに高級な車でも一歩も前に進むことはできないのです。


3. 親にしかできない「こころの温度調節」

では、家庭でガソリンを入れる、つまり「こころをコントロールする」とは、具体的にどういうことなのでしょうか。

それは、親が心理カウンセラーのように特別な言葉をかけることではありません。
お子さんの心の状態をよく見て、その「温度」を調節してあげることです。

① 心が焦ってパニックになっているとき(熱すぎる状態)
テスト前などで、「やばい、全然終わらない」「どうしよう」とお子さんがパニックになっているときは、家庭の空気を意識的に「ゆっくり」にしてあげてください。
「もっと早くからやらないからでしょ!」と正論で追い討ちをかけるのではなく、「とりあえず、温かいココアでも飲んで5分休もうか」と、勉強から少しだけ心を引き離して、クールダウンさせてあげます。

② 自信を失って落ち込んでいるとき(冷え切っている状態)
模試で悪い点数を取って帰ってきたとき。点数(結果)を見て叱るのではなく、プロセス(過程)を認める言葉をかけてあげてください。
「点数は悪かったけど、逃げずに最後までテストを受けてきたのは偉いね」
「この前のテストより、計算ミスの数は減ってるよ」
結果ではなく、「がんばろうとした姿勢」を認めてあげることで、冷え切った心にポッと小さな火が灯ります。

良い点数だったから褒める、悪い点数だったから叱る、という「条件付きの愛情」ではなく、「あなたがどんな点数を取ってきても、家はあなたの味方だよ」という無条件の安心感を与えること。
それが、家庭にしかできない最強のこころのコントロールです。


4. 親は勉強を教えられなくても、何も恥ずかしくない

保護者の方から、「私は数学も英語もチンプンカンプンで、子どもに勉強を教えてあげられないんです。ダメな親ですよね……」と相談を受けることがあります。

結論から言います。
親が勉強を教えられないことは、家庭教育において何のマイナスにもなりません。

方程式の解き方や、英単語の覚え方は、それを教えるプロである「塾」や「学校」に外注(お任せ)すればいいのです。そのために塾という場所が存在しています。

親が全教科を完璧に教えられたら、どうしても「なんでこんな簡単なことも分からないの!」と、感情的に叱ってしまいがちになります。親子という距離の近さゆえに、冷静に勉強を教えるのはプロの講師でも至難の業です。

親がやるべきなのは、勉強の「中身」を教えることではありません。
「今日、塾で分からなかったところがあるなら、明日塾の先生に質問しておいで。先生はそれを教えるのが仕事なんだから、遠慮しなくていいんだよ」と、お子さんの背中を押してあげることです。

勉強の中身は、外のプロに任せる。
でも、傷ついた心を癒やし、明日また机に向かうためのエネルギーを補給することは、外のプロには絶対にできません。それができるのは、世界中で親であるあなただけなのです。


5. 学校や塾に振り回されないために、不安を一緒に抱える

学校の先生からの厳しい言葉。
塾からのプレッシャー。
そうした情報が入ってきたとき、どうかその不安を、直接お子さんにパスしないでください。

親が不安になるのは、お子さんを愛している証拠です。
その不安を無理に押し殺す必要はありません。

お子さんが不安そうな顔をしているときは、「お母さんも(お父さんも)、実はすごく不安だよ。でも、一緒にがんばろうね。何か手伝えることがあったら言ってね」と、不安を否定せずに、そのまま一緒に抱えてあげてください。

「自分の不安を、お母さん(お父さん)が分かってくれた」
「一人ぼっちで戦っているんじゃないんだ」

その確かな安心感(安全基地)が家の中にあれば、子どもは少々の困難には負けません。
外の世界で厳しいことを言われて転んでも、「次はどうすればいいか」を自分の頭で考え、再び立ち上がって机に向かうことができます。

学校や塾の評価は、お子さんの「現在地」を測るためのただのデータ(材料)に過ぎません。そのデータに親が振り回されず、「じゃあ、家ではおいしいご飯を作って応援しよう」とドンと構えていること。

こころが整えば、子どもは必ず自分で歩き出します。
家庭は、成績を上げるための第二の教室ではなく、お子さんの心を温め、エネルギーを満タンにするための「最後の港」であってほしいと願っています。