過去形の本質:時間・相手との関係・現実からの「距離」

学校では、過去形は「過去の出来事を表す形」だと習います。

たとえば、次のような文です。

I played tennis yesterday.
私は昨日テニスをしました。

このように、過去形が「昔のこと」を表すのはもちろん正しいです。

ただし、英語の過去形には、それだけでは説明できない使い方があります。

たとえば、次のような文です。

Could you open the door?
ドアを開けていただけますか。

これは、過去の話ではありません。今、相手にお願いしています。

また、次のような文もあります。

If I had time, I would go.
もし時間があれば、行くのになあ。

これも、過去の話ではありません。今、時間がないという事実とは違う条件を表しています。

つまり、英語の過去形は、単に「昔のこと」を表すだけではありません。

英語の過去形には、中心となる働きがあります。

それは、今の状態、直接的な言い方、実際の事実から「距離を置く」ことです。

英語では、この「距離」を大きく分けて、次の3つの場面で使います。

  1. 時間の距離
    昔の出来事を表す普通の過去形
  2. 相手との関係における距離
    直接的すぎる言い方を避ける丁寧表現
  3. 現実との距離
    今の事実とは違う条件を表す仮定法過去

それぞれについて、文の作り方を見ていきます。

1. 丁寧表現:直接的な言い方を避けるための過去形

英語では、相手に何かを頼むときに、現在形の助動詞を使うと、かなり直接的な言い方になります。

たとえば、次の文です。

Can you open the door?
ドアを開けてくれる?

この文では、Can という現在形の助動詞が使われています。

現在形なので、相手に対する要求がそのまま直接出ています。

もちろん、この文が失礼というわけではありません。しかし、文法の形だけを見ると、相手との間に距離を置かずに、そのまま頼んでいる形です。

これに対して、次の文を見てください。

Could you open the door?
ドアを開けていただけますか。

ここでは、Can ではなく、過去形の Could が使われています。

この Could は、過去の意味ではありません。

今、相手に頼んでいます。

では、なぜ過去形を使うのか。

それは、過去形を使うことで、要求の言い方が直接的すぎない形になるからです。

Can you…? は、相手に近い距離でそのまま頼む形です。

Could you…? は、そこから少し距離を置いた形です。

英語では、このように直接性を弱めた形が、丁寧な表現として働きます。

例文の比較

直接的な要求

Can you open the door?
ドアを開けてくれる?

現在形の Can が使われているため、要求がそのまま相手に向かっています。

丁寧な要求

Could you open the door?
ドアを開けていただけますか。

過去形の Could を使うことで、要求に少し距離が生まれます。

その結果、直接的すぎない言い方になります。

丁寧表現を作る手順

丁寧な依頼文を作るときは、次の手順で考えます。

1. まず、基本の文を作る

相手に何を頼みたいのかを、現在形で考えます。

例:

Can you open the door?
ドアを開けてくれる?

2. 助動詞を過去形に変える

文の最初にある助動詞を、過去形に変えます。

CanCould
WillWould

3. 直接的すぎない依頼文にする

助動詞を過去形にすると、文全体が少し間接的になります。

例:

Could you open the door?
ドアを開けていただけますか。

このように、英語の丁寧表現では、「気持ち」そのものではなく、助動詞の形を変えることで、文の直接性を弱めます。

2. 仮定法過去:今の事実とは違うことを表す過去形

次に、仮定法過去を見ます。

仮定法過去は、「もし〜なら」と言う文でよく使われます。

ただし、ここで大切なのは、仮定法過去は単なる「もし」の文ではないということです。

仮定法過去は、今の事実とは違う条件を表すときに使う形です。

たとえば、今、自分には時間がないとします。

そのときに、

「もし時間があれば、行くのになあ」

と言いたい場合、英語では次のように言います。

If I had time, I would go.
もし時間があれば、行くのになあ。

この文では、hadwould が使われています。

どちらも過去形の形です。

しかし、この文は過去の話ではありません。

今の話です。

今、時間がない。

でも、時間がある場合のことを表している。

このように、今の事実とは違う条件を表すために、過去形を使います。

つまり、仮定法過去の過去形は、「昔のこと」を表すのではありません。

今の事実から距離があることを示しています。

例文の比較

普通の条件文

If I have time, I will go.
もし時間があれば、行くよ。

この文では、havewill が使われています。

現在形の have が使われているので、「時間がある可能性」があります。

つまり、この文は、実際に起こる可能性がある条件を表しています。

仮定法過去

If I had time, I would go.
もし時間があれば、行くのになあ。

この文では、hadwould が使われています。

ここでは、今の事実としては「時間がない」という前提があります。

そのため、現在形の have は使いません。

今の事実とは違う条件だと示すために、had という過去形を使います。

そして、後ろの文でも will ではなく would を使います。

仮定法過去を作る手順

仮定法過去の文を作るときは、次の手順で考えます。

1. 今の事実を確認する

まず、今の事実がどうなっているかを確認します。

例:

今、時間がない。

2. 今の事実とは違う条件を作る

今の事実とは違う条件を、If節で表します。

「時間がある」という条件を作る場合、本来ならこうなります。

If I have time
もし時間があれば

しかし、今の事実は「時間がない」です。

そのため、現在形の have ではなく、過去形の had を使います。

If I had time
もし時間があれば

3. 後ろの文の助動詞も過去形にする

If節で had を使ったら、後ろの文でも助動詞を過去形にします。

I will go
私は行く

これを、

I would go
私は行くのになあ

にします。

4. 文全体を作る

最後に、If節と後ろの文をつなげます。

If I had time, I would go.
もし時間があれば、行くのになあ。

このように、仮定法過去では、動詞や助動詞を過去形にすることで、今の事実とは違う条件を表します。

3. 仮定法の be動詞:なぜ was ではなく were を使うのか

高校英語では、次のような文を習います。

If I were a bird, I would fly to you.
もし私が鳥なら、あなたのところへ飛んでいくのに。

ここで、多くの生徒が疑問に思うのが、なぜ was ではなく were なのかということです。

普通の過去形なら、主語が I のときは was になります。

たとえば、

I was tired yesterday.
私は昨日疲れていました。

この文では、I was が正しいです。

では、なぜ仮定法では、

If I was a bird

ではなく、

If I were a bird

になるのでしょうか。

これは、単なる例外として丸暗記するだけではなく、過去形の「距離」という働きから考えることができます。

was と were の違い

was

was は、普通の過去の事実を表すときによく使われます。

例:

I was tired yesterday.
私は昨日疲れていました。

これは、実際に過去にあったことです。

were

一方、仮定法で使われる were は、普通の過去の事実ではありません。

これは、古い英語にあった「現実ではないことを示す特別な動詞の形」の名残です。

現代英語では、その形が一部残っています。

その代表が、

If I were…

です。

なぜ were を使うのか

もし、

If I was a bird

と言うと、普通の過去の文と形が近くなります。

つまり、「過去の事実を言っているのか」「今の事実とは違う条件を言っているのか」が、形の上では少し分かりにくくなります。

そこで、仮定法では were を使います。

If I were a bird

という形にすることで、

「これは過去の話ではありません」
「今の事実とは違う条件を表しています」

ということを、文法の形で示します。

つまり、were は、現実との距離をはっきり示すための形です。

まとめ

英語の過去形は、「昔のこと」を表すだけではありません。

過去形には、基準となるものから距離を置く働きがあります。

その距離には、次の3つがあります。

  1. 時間の距離
    昔の出来事を表す。
  2. 相手との関係における距離
    直接的すぎる言い方を避ける。
  3. 現実との距離
    今の事実とは違う条件を表す。

だから、過去形は次のような場面で使われます。

  • I played tennis yesterday.
    昔の出来事を表す。
  • Could you open the door?
    直接的すぎない依頼を表す。
  • If I had time, I would go.
    今の事実とは違う条件を表す。
  • If I were a bird, I would fly to you.
    現実とは違う条件を、はっきり示す。

このように考えると、過去形は「過去だけの形」ではありません。

英語では、過去形を使って、時間、相手との関係、現実との間に距離を作ります。