『新研究』を回す勉強から、使う勉強へ|完璧のぺき子ちゃん第3話
【12月 冬休み】学習机の「模様替え」
11月の実力テストで「348点」というショックな点数を取った翌日、ぺき子ちゃんは自分の部屋の机を一気に片付けました。
これまで机の真ん中にドスンと置いてあった『新研究』は、右の端っこの「困ったときだけ開くエリア」に移動させました。代わりに机の主役に選ばれたのは、これまで「学校の提出物だから、とりあえず答えを写して終わらせていた」本や、新しく用意した心強い道具たちでした。
- 学校の教科書準拠ワーク(数学・理科・社会)
- 学校の教科書(5教科分)
- 中学1年のときに買ったきり、一度も開いていなかった『英和・和英辞典』
- 全国の入試過去問がこれでもかと詰まった『全国高校入試問題正解』(通称:電話帳)
ぺき子ちゃんの新しい作戦は、とてもシンプルでした。ノートを綺麗にまとめるのを一切やめて、この道具たちを徹底的に「動かす」ことです。
【PM 2:00】英語:単語帳を眺めるのをやめて、辞書をめくる
英語の時間、ぺき子ちゃんは『新研究』の単語リストをじっと眺めて覚えるのを完全にやめました。代わりに、学校ワークや『全国高校入試問題正解』の長文に出てきた知らない単語(例えば reduce)の下に、黒鉛筆でサッと線を引きます。
そこから、机の上の重たい『英和辞典』をパタパタとめくります。
お目当ての単語を見つけたら、意味だけを見るのではなく、その下にある【例文】に目を落とします。
- reduce:「(数量やサイズを)小さくする、減らす」
辞書には、その単語がどんな風に英文の中で使われるかのルール(後ろにどんな言葉が続くか)が詳しく書いてあります。ぺき子ちゃんは、その例文を丸ごと1文、ノートの余白にガリガリと書き写しました。
さらに、英作文で「〜に役立つ」という言葉を書きたいときは、今度は『和英辞典』を開きます。ただ解答を見て丸暗記するのではないため、「役に立つ」という意味の単語がいくつか並んでいる中から、どれが自分の書きたい文にぴったり合うかを、辞書の説明を読んで自分で選ぶ力がついていきました。
【PM 5:00】数学・理科:他県の過去問を「電話帳」で攻める
新しく仲間に加わった『全国高校入試問題正解』は、辞書並みに分厚くて重たい問題集です。ここには、日本中の公立高校で実際に出た入試問題がそのまま載っています。
『新研究』のように「ここは関数のページ」というヒントはどこにもありません。ぺき子ちゃんは、タイマーを45分にセットして、初見の他県の過去問にガチンコで挑みました。
当然、最初は見たこともないグラフや実験問題にぶつかって、手が止まります。
でも、ここからが彼女の新しい勉強法です。
- 『新研究』をインデックス(目次)として開く:解けなかった問題を見て、「あ、この問題は、新研究の理科の42ページにある『化学変化と質量』のパターンに似ているな」と、つまずいた場所の「住所」を特定します。
- 学校の教科書とワークに戻る:特定した住所を頼りに、今度は学校の教科書を開いて、実験の「理由」をじっくり読み直します。さらに、教科書ワークのB問題(応用問題)を使って、同じような計算問題を5問連続で解いて、自力で解くコツを体に染み込ませていきました。
『全国高校入試問題正解』で初見の応用問題に揉まれ、分からなくなったら『新研究』の目次を頼りに『教科書ワーク』へ戻って穴を埋める。この教材たちのキャッチボールが、彼女の実力をぐんぐん押し上げていきました。
【1月 実力テスト】「マークミス」を疑われるほどの点数
1月下旬、中学校で最後となる県一斉実力テストの成績表が返ってきた日、職員室の先生たちはザワつきました。
「おい、ぺき子、今回の点数は一体どうしたんだ?」
そこにあったのは、周りの友達からは「奇跡が起きた!」と言われ、担任の先生からは「名前の書き間違えか、マークミスじゃないか」と本気で疑われるほどの、とんでもない数字でした。
- 国語:87点(ワークで練習した通り、記述問題の条件をクリア)
- 数学:85点(電話帳で色々な県の入試問題を解いていたおかげで、図形の補助線がパッとひらめいた)
- 英語:92点(長文読解が全問正解。英作文も辞書で覚えた形を使ってノーミス)
- 理科:85点(他県の過去問で見たような複雑なグラフから、物質の割合をバッチリ計算)
- 社会:86点
- 5教科合計:441点(偏差値66.8)
11月まで340点台でウじウじ悩んでいたぺき子ちゃんの点数は、たった2ヶ月で80点以上も跳ね上がり、目標だった400点を大きく超えて、地域トップの進学校(偏差値68)の合格ライン近くまで迫ったのです。
暗記カードのような本をただ何周も眺めるだけの退屈な勉強をストップし、教科書やワーク、辞書、そして過去問という「本物の道具」を泥臭く使いこなした結果の、当然のご褒美でした。
【受験1週間前】焦る教室と、静かなマイデスク
3月上旬。入試本番をちょうど1週間後に控えた夜。
クラスの友達はみんな焦っていました。「直前予想問題集」を何冊も買い込んで夜遅くまでパニックになっていたり、休み時間の教室でも「どうしよう、何が出ても解けない気がする」と不安をぶつけ合ったりしています。
正式な合格ラインが出る前のピリピリした空気の中、受験1週間前のぺき子ちゃんの部屋は、驚くほど静かでした。
彼女の机の上には、あのボロボロになった『新研究』が開かれていました。
過去3ヶ月間、電話帳や学校ワーク、辞書と格闘してきた自分だけの秘密のマークが、全ページにたくさん書き込まれています。
- 「○」の横に青ペンで「電話帳・神奈川県過去問でクリア」
- 「✕」の横に緑ペンで「英和辞典の例文をチェック」
彼女が今やっているのは、入試前の「最終チェック」です。
タイマーを30分にセットして、『新研究』を自分のための「弱点チェックリスト」としてパチパチとめくっていきます。
「あ、この歴史の並び替え問題、12月に電話帳で間違えて、学校ワークでやり直して得意になったところだ」
そう確信できたページには、鉛筆で大きくチェックをつけていきます。もし「ちょっと怪しいな」と思う部分があれば、横に置いてある『英和辞典』や学校ワークをパッと開いて、1問だけ解き直します。
新しく覚えることなんて、もう何もありません。
自分が何を分かっていて、何が苦手なのか。そのすべてが、自分の机の上で完全に整理されて見えています。
焦りも不安もありません。あるのは「自分でやりきった勉強法」への絶対的な安心感だけ。
完璧のぺき子ちゃんは、静かに『新研究』を閉じ、部屋の電気を消しました。時計の針は、いつも通りの夜10時半を指していました。