数学が苦手な子は才能がないのか?家庭でできる支え方
――「生まれつき」で終わらせず、その子に合う伸ばし方を考える――
数学が苦手な子を見ていると、保護者の方は不安になることがあります。
計算が遅い。
文章題になると止まってしまう。
図形を見るだけで嫌がる。
説明を聞いた直後は分かったように見えるのに、一人で解くとできない。
こうした姿が続くと、つい考えてしまいます。
「この子は数学の才能がないのではないか」
数学は、他の教科よりも「できる子」と「できない子」の差が目立ちやすい教科です。
同じ授業を受けているのに、すぐ理解する子がいる。
同じワークを使っているのに、片方はどんどん進み、もう片方は最初の例題で止まってしまう。
同じように勉強しているはずなのに、テストの点数に大きな差が出る。
こういう場面を見ると、「やはり数学は生まれつきなのか」と思いたくなります。
たしかに、数学には得意不得意が出やすい面があります。
しかし、それをすぐに「才能がないから無理」と決めてしまうのは、かなり危険です。
数学が苦手に見える子の中には、能力そのものが足りないというより、学び方や順番が合っていないだけの子もいます。
また、過去の失敗経験によって、問題を見る前から身構えてしまっている子もいます。
数学の苦手さは、単純に「頭の良し悪し」だけで決まるものではありません。
その子の認知の特徴、これまでの学習経験、間違いへの不安、教材との相性、説明の入り方、家庭での声かけ。
そうしたものが重なって、「数学が苦手」という状態が作られていることが多いのです。
数学は「差」が見えやすい教科である
数学が苦手な子にとってつらいのは、差がはっきり見えやすいことです。
英語や社会なら、暗記した部分だけ点が取れることがあります。
国語でも、漢字や文法、作文など、部分的に得点できる領域があります。
しかし数学は、前の内容が分からないと次の内容に進みにくい教科です。
正負の数でつまずくと、文字式が重くなる。
文字式があやふやだと、方程式で苦しくなる。
方程式が弱いと、関数や文章題で止まりやすくなる。
図形の基礎が抜けていると、証明で何を書けばよいか分からなくなる。
このように、数学は積み重ねの影響が大きい教科です。
一か所の穴が、その後の単元に何度も顔を出します。
そのため、少しつまずいただけのつもりでも、いつの間にか大きな苦手意識になってしまうことがあります。
数学ができないように見える子の中には、今習っている内容が分からないのではなく、もっと前の段階で止まっている子もいます。
その場合、今の単元だけを何度説明しても、なかなか改善しません。
土台の一部が抜けたまま、その上に新しい内容を積もうとしているからです。
数学が得意な子は、何を自然にやっているのか
数学が得意な子は、特別な公式をたくさん知っているだけではありません。
問題を見たときに、頭の中でいくつかの処理を自然に行っています。
条件を整理する。
何を求める問題かをつかむ。
使えそうな公式や考え方を選ぶ。
途中式を書きながら、計算の流れを追う。
答えが問題に合っているか確認する。
この一連の動きが、ある程度なめらかにできます。
ところが、数学が苦手な子は、このどこかで止まります。
問題文の意味をつかむところで止まる子もいます。
何を使えばよいか選べない子もいます。
途中式の一行一行を追えない子もいます。
計算はできるのに、文章題になると式を立てられない子もいます。
つまり、「数学が苦手」と一言で言っても、止まっている場所は子どもによって違います。
ここを見分けずに、ただ「もっと練習しなさい」と言っても、あまり効果が出ないことがあります。
必要なのは、数学ができないという大きな言葉でまとめることではありません。
どの処理で止まっているのかを見つけることです。
生まれつきの得意不得意は、たしかにある
数学には、生まれつきの認知特性が関係します。
抽象的に考えることが得意な子。
数や図形の関係をつかむのが速い子。
頭の中で複数の情報を同時に扱える子。
計算処理が速く、ミスが少ない子。
こうした子は、数学で有利になりやすい面があります。
反対に、数字を扱うだけで負担が大きい子もいます。
問題文を読んでいるうちに、最初の条件を忘れてしまう。
途中式を書いているうちに、自分が何を求めていたのか分からなくなる。
図形の中にある関係を、なかなか見つけられない。
公式を覚えても、どこで使うのか判断できない。
こうした子は、数学で苦労しやすくなります。
この差をまったくないものとして扱う必要はありません。
むしろ、差があることを認めた方が、現実的な支援ができます。
ただし、ここで大切なのは、その差を「だから無理」という結論にしないことです。
得意不得意があるからこそ、その子に合う入り口を探す必要があります。
数学が苦手な子には、苦手になる理由がある
数学が苦手な子を見ていると、「考える力がない」と言われてしまうことがあります。
しかし、実際にはもっと具体的な理由があることが多いです。
たとえば、計算の基本が不安定な子は、文章題に入る前にかなりの注意力を使っています。
本来なら、文章題では「何を式にするか」を考えたいところです。
ところが、計算そのものに不安があると、式を作ったあとも計算で手いっぱいになります。
結果として、問題全体を見る余裕がなくなります。
また、途中式を書く習慣がない子は、自分がどこで間違えたのか分かりません。
答えが違っていても、途中の道筋が残っていないため、直しようがないのです。
さらに、問題文を読むのが苦手な子は、数学以前に言葉で止まります。
「合わせて」なのか。
「差」なのか。
「何倍」なのか。
「増えた」のか「減った」のか。
「割合」なのか「実際の数量」なのか。
この読み取りがあいまいなままでは、正しい式は立てられません。
数学の苦手さは、ひとつの原因で起きるとは限りません。
計算、読解、記憶、注意力、書き方、過去の苦手意識。
それらが絡み合っていることが多いのです。
「努力しているのに伸びない」には理由がある
数学が苦手な子の中には、まったく勉強していないわけではない子もいます。
ワークはやっている。
ノートも取っている。
テスト前にはそれなりに時間も使っている。
学校の課題も一応出している。
それでも点数が伸びない。
こうなると、本人も保護者もつらくなります。
「やっているのに伸びないなら、やっぱり才能がないのではないか」
そう考えたくなります。
しかし、ここで見るべきなのは、努力の量だけではありません。
努力の方向です。
数学では、ただ答えを写すだけでは力がつきません。
解説を読んで分かった気になるだけでも足りません。
一度解いた問題を、丸つけして終わりにするだけでも弱いです。
大切なのは、間違えた問題をもう一度自力で解けるようにすることです。
数学は、「見れば分かる」と「自分で解ける」の差が大きい教科です。
解説を読むと分かる。
先生が解くと分かる。
友達のノートを見ると分かる。
それでも、自分一人で最初から最後まで解けるとは限りません。
この差を埋めるには、解き直しが必要です。
数学で伸び悩む子は、この解き直しが不足していることがあります。
数学は「分かった気になる」ことが多い教科である
数学の授業では、先生の説明を聞くと分かったような気持ちになることがあります。
黒板の式を見れば、流れは分かる。
解説を読めば、なるほどと思う。
友達が解いた答えを見れば、たしかにそうだと思う。
しかし、それはまだ「理解の入口」です。
本当に身についているかどうかは、自分で解いてみないと分かりません。
数学では、分かったつもりと、解ける状態の間に距離があります。
この距離を埋めるには、手を動かす必要があります。
途中式を書く。
条件を自分で整理する。
答えを見る前に、自分の力で最後まで進める。
間違えたら、どこでずれたのか確認する。
時間を置いて、もう一度解いてみる。
こうした作業が必要です。
数学が苦手な子ほど、ここを飛ばしてしまいがちです。
なぜなら、自分で解くと間違いが見えるからです。
間違いが見えると、傷つきます。
だから、解説を眺めて「分かった」と思うところで止まりたくなるのです。
しかし、そのままだとテストでは使えません。
数学の力は、自分の手で解いたときに初めて鍛えられます。
家庭では「才能がない」と言う前に、どこで止まるかを見る
家庭で子どもの数学を見るとき、いきなり長時間教えようとする必要はありません。
むしろ、保護者の方がすべてを教えようとすると、親子で苦しくなることがあります。
大切なのは、子どもがどこで止まっているのかを見ることです。
問題文を読むところで止まっているのか。
式を立てるところで止まっているのか。
計算の途中で崩れているのか。
公式を覚えていないのか。
公式は覚えているが、使う場面が分からないのか。
答え合わせのあと、直し方が分からないのか。
これだけでも、かなり見えてくるものがあります。
「数学が苦手」とまとめると、対策も大ざっぱになります。
しかし、「文章題の条件整理で止まっている」「計算はできるが途中式が雑」「公式を使う判断で止まっている」と分かれば、対策は具体的になります。
子どもを責める前に、止まっている場所を見つける。
それが、数学を伸ばす第一歩です。
数学が苦手な子には、戻る場所が必要になる
数学で大きくつまずいている子には、今習っている単元だけを頑張らせても難しいことがあります。
たとえば、中学二年生で連立方程式が苦手な子がいたとします。
その子は、連立方程式そのものが分からないのかもしれません。
しかし、実際には中学一年生の文字式や一次方程式の理解があやふやな場合もあります。
さらに戻ると、正負の数の計算で符号の感覚が不安定なこともあります。
この場合、今の単元だけを繰り返しても、なかなか安定しません。
必要なのは、戻ることです。
戻るというと、子どもは嫌がることがあります。
「そんな前のところをやるの?」
「自分はそんなにできないの?」
「恥ずかしい」
そう感じる子もいます。
しかし、数学では戻ることは負けではありません。
抜けている土台を確認することです。
むしろ、適切に戻れる子ほど、あとで伸びやすくなります。
どこまで戻れば分かるのか。
そこを見つけることが、数学では非常に大切です。
数学の苦手意識は、失敗経験で強くなる
数学が苦手な子は、ただ問題が解けないだけではありません。
多くの場合、過去に何度も嫌な経験をしています。
黒板で解けなかった。
テストで大きく点を落とした。
何度説明されても分からなかった。
友達がすぐ解ける問題で、自分だけ止まった。
家で教えてもらっているうちに、親子で険悪になった。
こうした経験が重なると、子どもは数学の問題を見る前から身構えます。
また分からないかもしれない。
また怒られるかもしれない。
また自分はだめだと思うかもしれない。
この状態になると、数学の問題はただの問題ではなくなります。
自分の苦手さを突きつけてくるものになります。
すると、最初の一問に手をつけること自体が重くなります。
数学が苦手な子を伸ばすには、この心理的な重さも見ておく必要があります。
ただ説明を増やすだけでは足りないことがあります。
安心して間違えられる状態を作らなければ、子どもは自分の分からなさを出せません。
数学を伸ばすには、間違いを材料にする力が必要
数学で伸びる子は、間違いを直すことができます。
間違えない子が伸びるのではありません。
間違えたあとに、どこでずれたのかを見られる子が伸びます。
計算ミスなのか。
問題文の読み違いなのか。
公式の選び方が違ったのか。
途中式の変形でずれたのか。
そもそも前の単元が抜けていたのか。
この確認ができると、間違いは単なる失敗ではなくなります。
次に直す場所を教えてくれる材料になります。
しかし、数学が苦手な子は、間違いを見ること自体を嫌がることがあります。
バツを見ると落ち込む。
直しをする前に投げ出す。
答えだけ赤で写して終わる。
なぜ間違えたかを確認しない。
これでは、間違いが次につながりません。
家庭や塾で支えるなら、まずは間違いを責めないことです。
「ここが分かれば次に進める」
「間違えた場所が見つかったのは悪いことではない」
「この一問を直せれば、似た問題も変わる」
このように、間違いを材料として扱うことが大切です。
家庭でできる支え方は、長時間教えることだけではない
数学が苦手な子に対して、家庭でできることはたくさんあります。
ただし、親が毎日長時間教える必要はありません。
むしろ、親子で数学を教え合うと、感情がこじれやすいこともあります。
家庭でまずできるのは、学習の状態を整えることです。
短い時間でよいので、問題を解く時間を作る。
丸つけを先延ばしにしない。
間違えた問題に印をつける。
答えを写して終わりにしない。
できなかった問題を、数日後にもう一度解く。
こうした基本的な流れを作るだけでも、数学の勉強はかなり変わります。
また、子どもが完全に止まっている場合は、家庭だけで抱え込まない方がよいこともあります。
数学は、どこでつまずいているかを見つけることが大切な教科です。
そのため、第三者が見ることで、意外な抜けが分かることがあります。
本人も、親には言えない「分からない」を、外の先生には言えることがあります。
数学が苦手な子には、説明そのものだけでなく、安心して分からないと言える場が必要です。
「才能がない」より「合う道筋がまだ見つかっていない」と考える
数学が苦手な子を見ていると、大人はつい結論を急ぎます。
この子は数学向きではない。
理系は無理かもしれない。
どうせ伸びないかもしれない。
もちろん、得意不得意はあります。
数学が得意な子と同じ速さで進めない子もいます。
しかし、だからといって、伸びる余地がないわけではありません。
数学が苦手な子に必要なのは、他の子と同じ速さで進むことではありません。
その子に合う道筋を見つけることです。
計算から戻る。
文章題を図にする。
公式を丸暗記でなく、使う場面と一緒に覚える。
一度に大量にやらず、短い単位で反復する。
間違えた問題だけを集めて、時間を置いて解き直す。
こうした工夫で、数学の見え方が変わる子はいます。
数学が苦手という状態は、固定された運命ではありません。
少なくとも、今の学び方のままでは苦しいというサインです。
そのサインを見て、道筋を変えることが大切です。
数学の力は、少し遅れて伸びることがある
数学は、すぐに結果が出ないことがあります。
基礎に戻っている時期は、今のテスト範囲の点数に直結しないこともあります。
間違い直しを始めても、最初はバツばかりで、本人が嫌になることもあります。
途中式を書く習慣をつけても、すぐに点数が上がるとは限りません。
しかし、こうした取り組みは、あとから効いてくることがあります。
問題文を読むようになった。
式の意味を考えるようになった。
途中式が残るようになった。
ミスの原因を確認できるようになった。
分からない問題をそのままにしなくなった。
こうした変化は、最初は点数に見えにくいかもしれません。
けれども、数学を伸ばす土台としては非常に重要です。
点数だけを見ると、この小さな変化を見落とします。
数学が苦手な子ほど、点数になる前の変化を見てあげる必要があります。
まとめ:数学の苦手さを才能だけで決めない
数学には、生まれつきの得意不得意が関係します。
抽象的に考える力、計算処理、記憶の使い方、図形感覚などには個人差があります。
その差を無理にないことにする必要はありません。
しかし、その差を見た瞬間に「才能がない」と決めてしまう必要もありません。
数学が苦手な子には、苦手になる理由があります。
前の単元が抜けている。
問題文の条件整理で止まる。
途中式を書かないため、ミスの場所が分からない。
解説を読んで分かったつもりになっている。
間違いを見るのが怖くて、解き直しができない。
自分に合う学び方にまだ出会っていない。
こうした理由を一つずつ見ていくと、対策は変わります。
数学が苦手な子を支えるときに大切なのは、「もっと頑張れ」と言うことだけではありません。
どこで止まっているのかを見ること。
必要なら前の単元に戻ること。
間違いを責めず、次の材料にすること。
解説を読むだけで終わらせず、自分で解き直すこと。
その子に合う道筋を探すこと。
数学の能力には個人差があります。
しかし、個人差があるからこそ、同じやり方を押しつけるのではなく、その子に合う学び方が必要になります。
「数学が苦手」は、終わりの言葉ではありません。
今の学び方ではうまくいっていない、というサインです。
そのサインを丁寧に見れば、次に何を変えればよいかが見えてきます。
才能で片づける前に、まずは止まっている場所を見つける。
そこから、数学の学び直しは始まります。