心理学の言葉に「作業興奮」というものがあります。

難しく聞こえるかもしれませんが、意味はとてもシンプルです。動き始めると、そのあとで気分や集中がついてくるという現象のことです。

たとえば、こんな経験はありませんか。

家で用事を頼まれたとき、最初は「面倒くさい」と感じる。今はゆっくりしていたい、別のことをしていたい。頼まれた瞬間に、少し嫌な気分になることがあります。

けれど、実際に動き始めてみると、数分後にはその感じが変わっていることがあります。

食器を運ぶ。洗濯物をたたむ。机の上を片づける。荷物を運ぶ。最初は面倒だったはずなのに、手を動かしているうちに、だんだん作業のほうに意識が向いていく。

気がつくと、「やる前ほど嫌ではない」と感じていることもあります。

ここで大切なのは、最初の気分は、そのまま続くとは限らないということです。

「面倒くさい」と思ったからといって、そのままずっと面倒なままとは限りません。むしろ、動き始めたあとで気分のほうが変わってくることがある。

これは、気分が先に変わったから動けたのではありません。動き始めたことで、あとから気分が変わってきたのです。

このときに起きているのが、作業興奮です。

そしてこの心理の動きは、勉強にもそのまま当てはまります。

勉強でも、同じことが起きる

勉強の場合も、「やる気が出たから始める」のではなく、始めたからやる気がついてくることがあります。

多くの人は、「やる気が出たら勉強しよう」と考えます。けれど実際には、やる気は待っていてもなかなか出てきません。

むしろ、最初は面倒くさいままでいいのです。

単語帳を開く。問題を一問だけ解く。ワークを一ページだけ見る。そうやって手を動かし始めると、少しずつ頭が勉強の状態に切り替わっていきます。

最初の数分は重い。けれど、その数分を越えると、だんだん「やる側の状態」になっていく。

勉強で一番重いのは、実は始める前です。

作業興奮を利用した学習場面の例

この「動き始めると気分がついてくる」という仕組みを意識して使うと、勉強はかなりやりやすくなります。

たとえば、英単語を覚えるとき。最初から「今日は30個やろう」と思うと重くなります。そこで「とりあえず5個だけ見る」と決めて始めます。実際に見始めると、もう少しだけやろうかな、となることがあります。気がつくと10個、15個と進んでいる。最初の目的は覚えきることではなく、手を動かし始めることです。

数学のワークも同じです。「このページ全部やる」と思うと止まることがあります。そういうときは、「最初の1問だけやる」と決める。1問解いてみると、次とのつながりが見えて、そのまま続けられることがあります。数学は特に、最初の1問でエンジンがかかる教科です。

定期テスト勉強も同じです。範囲を見て「多い」と思った瞬間に止まってしまうことがあります。そんなときは、ノートを開いて見出しだけ書く、教科書を1ページだけ読む、といった軽い動きから入ります。始めてしまえば、その流れで少しずつ進めることができます。

どうしても気分が乗らない日もあります。そういう日は、「5分だけやる」と決めるのも一つの方法です。5分やってみて無理ならやめてもいいと決める。すると、実際にはそのまま続けられることも多いです。

作業興奮は「小さく始める技術」である

作業興奮をうまく使うコツは一つです。

できるだけ小さく始めることです。

やる気が出るのを待つのではなく、動き出せる形を作る。一問だけ。一ページだけ。5分だけ。その小さな動きが、あとから集中ややる気を連れてきます。

勉強は、「やる気が出てから始めるもの」ではありません。

始めることで、やる気を呼び込むものです。

この記事で扱っている「作業興奮」は、学習心理学の一つです。

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