当塾の指導方針が、なぜ「傾聴」を重んじるのか。その背景にあるストーリーをご一読いただければ幸いです。

30年の経験を「学問」で捉え直す:慶應義塾大学での挑戦

塾講師として30年以上、数多くの生徒と向き合ってきました。しかし50歳を過ぎた頃、私は「これまでの経験を、単なる勘や経験則ではなく、学問的な視点で総括したい」という強い衝動に駆られました。

その情熱に従い、慶應義塾大学の通信教育課程に入学。教育社会学の分野を軸として学びを開始しました。卒業論文のテーマに選んだのは、「高校受験を迎えた中学3年生の学習意欲」についてです。

卒業論文はブルーマーの「シンボリック相互作用論」を基礎に据えたものでした。生徒たちが自己と友人・部活動・学校生活との関わりの中で、どのように学習意欲を形成していくのか。それを解き明かすため、私は半年間にわたるインタビュー調査を行いました。

偶然から生まれた「教育的発見」

この調査には、一つ大きな制約がありました。それは、「受験や学習全般へのアドバイスを完全に禁止する」ということです。

通常の学習相談であれば、生徒の悩みに対して解決策を提示し、励ますのが講師の役目です。しかし、社会学の調査においては、調査者の感想や意見が混じると「データの歪み」を生じさせ、客観的な分析ができなくなります。私は徹底して「聞き手」に回り、生徒の話に頷き、ただただ耳を傾けることに徹しました。

そこで、驚くべき現象が起きたのです。

それは、アドバイスを一切せず、ただ「聞きっぱなし」にした時の方が、普段の学習相談よりもずっと生徒たちの学習意欲を高めることになったのです。それも、10名の調査対象者全員でした。

「何もしない」という最強の指導法

この現象を目の当たりにした時、私の脳裏をよぎったのは、漫画『ドラゴン桜』の一場面でした。
「成績が良くても褒めず、悪くても叱らない。ただ何も言わずに見守る」
当時はパラドックスのように感じられたその言葉が、実体験として私の中に繋がりました。

この不思議な現象について、まずはネットで調べ、これかもしれないと思うものを書籍等であたっていきました。そうした中で見つけたのが、トマス・ゴードン博士の「傾聴(アクティブ・リスニング)」です。

生徒が発する言葉の裏にある感情を、評価や判断を加えずに受け止める。この「無条件の肯定」こそが、彼らの内面にある「自ら成長しようとする力」を解放する鍵だったのです。

当塾の根幹:聴くことが、本当の学びを支える

こうして私は、生徒への指導の根幹に「傾聴」を据えるに至ったのです。

もちろん、学習塾ですから知識を伝え、解法を教えることは当然です。しかし、それを受け取る土壌――つまり生徒の「心の安定」や「自己肯定感」が整っていなければ、どんな優れた教えも砂に水が吸い込まれるように消えてしまいます。

アドバイスで生徒をコントロールしない。
評価の言葉で生徒を縛らない。
まずは、徹底して生徒の声を聴く。

この姿勢こそが、生徒たちが「自らの内に強い意欲」を育て、「自分の人生を、自分の意志で切り拓く」ための最強の支援になると考えています。